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無気力


もう、なんだってよかった。

「ちょっといいかな」
「はい…?」
学校の帰り道。
派手に登場した国務大臣の車に押し込められ、
連れて行かれたのは国会議事堂の一室だった。
アンティークな雰囲気が漂う装飾に見蕩れつつ、
僕はぺらぺらと良く喋る頭の禿げた男性の話を
生半に聞いていたのだけれど。

「実はね、戦争をやるんだ」

僕は不意に注意をひかれた。
今、戦争と言ったのだろうか。
男性はあははと笑い、
「突然だからちょっと信じられないだろうけれどね」
と言った。
本当なら、笑い事ではない。
僕は部屋の美しい装飾からやっと目を離した。
「それで、なんですか?」
「ああ、ええとね、実は―――」

「―――君に、軍に入ってもらうことになったんだよ」

―――なったんだよ、とはどういうことだろう。
僕は了承していないのに、まるでもう決まっている事のような――
決まって、いるのか。
「拒否権はないんですか」
「ないね」
男性はにこやかな顔をして短く言い放った。
「僕、厭なんですけど」
「厭って言うけどね、君。戦争が始まればそうも云ってられない。
日本中の男子が徴兵されるんだからね。
君はお父さんやお母さんが死んじゃってもいいの?」
僕は興味を失った風に見えるように、できるだけゆっくり横を向いた。
横で男性の溜め息が聞こえる。
「友達も死んじゃうかもしれないね」
彼は尚も責める。
僕に責められる義理はない。
「おじさんたちが守ればいいでしょう?」
横目でちらりと見た男性の顔は厭な感じに歪んでいた。
「君は酷い子だ。友達も家族も大事に思ってないんだね。」
僕が反論しないのを見て、男性はずいと顔を寄せ、
「病院に入るかい?」
と凄んだ。軍に入らなければ病院送りにするぞ、ということか。
でも病院ってなんだろう。精神系か、それとも
少年院のことを揶揄しているのか…
「さあ、どうする?」
僕は相変わらず飄々として見せた。
「少し時間をやろう」
そう云って男性はドアから去った。
うるさい音を立てて閉まったドアを見詰めながら、
僕は再び装飾品の見物をしようか、などと考える。

窓枠を見ながら、
あそこから降りれば逃げられるなあ、
でも逃げたらきっと日本にはいられなくなるんだろうなあ、
とかのくだらない堂々巡りの思考を繰り広げていると、
ドア付近でがちゃりと音がした。
さっきの男が入ってきた。
「答えを聞こうか」

そして僕は云う。

「どちらも、厭です」
微笑む。
男は眉をぴくりと痙攣させ、「そうか」と上ずった声をだした。


そして戦争は始まる。
あの時、僕は云ってやった。
お国のために命を賭ける気は無い。
知らない人間などどうでもいいのだ、と。
そういえば、あの男は僕がそれを云ったとき
酷く怯えた目をしたけれど、あれはなんだったんだろう。
まあ、いいか。もう、なんだっていい。
僕はこの手に抱えられるだけの人を守れれば、満足。

けれど―――


ぼくにいったいこの手にかかえるほど、
たいせつなひとなんていたっけ。



「すっかり壊滅だな」
「はい」
「生き残りがいるとは思わなかったよ」

「君は、悲しくないの?」
こくん、と頷いた少年に、兵隊は怪訝な顔をする。
「どうして――」
「だって」



「なんだっていいですもん、僕」
少年は飄々と云った。

The end.
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